治療設備紹介
加速器システム
荷電粒子(電気を帯びた粒子)に電圧を加え、方向と速さのそろった高いエネルギーの粒子(ビーム)を作り出す装置です。重粒子線治療のためには、荷電粒子を腫瘍に届くエネルギーまで加速させる必要があります。本施設の加速器システムの主加速器には、シンクロトロン(直径約17m、周長約57m)を採用しています。
シンクロトロンは重粒子線を円形軌道上で数百万回/秒、周回させて治療に必要なエネルギーまで高周波で加速する装置です。加速された重粒子は最大で光速の約70%に到達します。
入射器(Injector)
■入射器の原理と構成
入射器は、重粒子線をシンクロトロンへ入射するために必要なエネルギーまで加速する装置で、イオン源と線型加速器で構成されます。
イオン源はメタンガスから炭素イオンを作り出します。線型加速器はRFQライナックとAPF
IH-DTLから構成され、高周波電圧により炭素イオンをメタンガスから光の速度の約9%まで加速します。
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方式 永久磁石ECRイオン源 イオン源 C4+ 導入ガス CH4 エネルギー 10keV/u ※Electron Cyclotron Resonance
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加速イオン C4+ エネルギー 600keV/u 周波数 200MHz ※Radio Frequency Quadrupole
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加速イオン C4+ エネルギー 4.0MeV/u 周波数 200MHz ※Alternating-Phase-Focused Interdigital H-mode Drift-Tube-Linac
電磁石電源
(Electromagnet power
supply)
■電磁石電源とは
治療においては、サブミリオーダの高いビーム位置精度が要求されます。シンクロトロンでは、ビームを軌道に沿うように曲げる偏向電磁石、ビームを収束するレンズの役割を持つ四極電磁石、軌道補正を行うステアリング電磁石によって制御します。これらの電磁石を励磁するのが電磁石電源であり、ビーム位置精度の制御に重要な役割を果たしています。
■システムの特長と偏向電磁石電源
本施設では、シンクロトロンの小型化とスキャニング照射が重要な特長であり、それを実現するため、ノイズを極力低減した安定な電源が必要でした。
大阪大学核物理研究センター名誉教授の土岐博先生にご指導頂き、ノイズ抑制の決定版として発案された佐藤・土岐の対称3線方式を採用した偏向電磁石電源を開発しました。“ゆらぎ”を表す電流リプルは世界最高の低い値を示しており、高いビーム位置精度を実現しています。
■偏向電磁石電源仕様
出力電流 | 3800A |
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出力電圧 | ±1200V |
立上り | 755ms |
立下り | 435ms |
出力平均電力 | 1.8MW |
出力電力 | 4.6MWp |
受電容量 | 2.4MVA(6.0MVAp) 力率1, 高調波抑制対策 |
冷却方式 | 水冷 |
電磁石 | 10mH, 8.0mΩ×12直列接続 |
電流リプル | 2×10-6p-p(Flat Top) |
治療システム
治療室は3室あり、毎回X線あるいはCTで位置照合の後、照射を行います。治療室1は水平/45度方向、治療室2・3は水平/垂直方向です。
治療室の構成
治療室1 | 水平/45度ポート+動体追跡照射技術 |
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治療室2 | 水平/垂直ポート+動体追跡照射技術+In room CT |
治療室3 | 水平/垂直ポート |
X線撮像システム
X線管・FPD※で構成され、照射部位を決定するためのX線画像を撮像します。使用しない時は退避します。
※Flat Panel Detector
治療計画システム(Treatment Planning System)
■治療計画システムの機能
治療計画システムは、患部に重粒子線を照射する前に、照射する重粒子線の線量や照射範囲、方向をシミュレーションし評価するためのものです。計画立案支援ソフトウェアと計画立案ソフトウェアで構成されています。
■計画立案支援ソフトウェア(RayStation Doctor)
計画立案支援ソフトウェアとして採用しているRayStation Doctorは輪郭作成・治療計画評価を行うソフトウェアで、事前に撮影したCTイメージに対し、腫瘍等の輪郭形状を設定します。
■計画立案ソフトウェア(VQA Plan)
計画立案ソフトウェアとして採用しているVQA Planは照射計画と線量計算を行うソフトウェアで、体内での重粒子線の線量分布をシミュレーションし、治療計画データを作成します。線量計算アルゴリズムには粒子線で広く用いられているペンシルビーム法を採用しています。
また、治療期間中は、患者様の体型や治療経過に伴い腫瘍の形状の変化がみられます。 VQAは実際の治療における患者様のセットアップ誤差や臓器の動きを考慮した補正機能を多数そろえているため、CTをデフォーメーション(変形)することで初回治療計画時に立てた情報と日々の形状変化に伴った線量分布の計算や線量積算結果の比較評価が行え、患者様の治療経過に伴うミリ単位のアダプテーション(適応)も迅速に行えます。
患者位置決めシステム
(Patient Positioning System )
患者位置決めシステムは、重粒子線を精度良く照射するために患者の位置を決定するシステムで、治療台、レーザーマーカ、X線撮像装置及び患者位置決め支援システム(PIAS)で構成されています。
■治療台
治療台は6軸駆動で1㎜以内の高い精度で照射部位を合わせます。
■レーザーマーカ
レーザーマーカで患者の体表面の位置合わせを行います。
■X線撮像装置(正側/動体追跡用)
X線撮像装置はX線管・FPD※で構成されます。正側X線撮像システムでは照射位置を決定するためのX線画像を撮像します。また、動体追跡用では透視画像を撮像することで、金マーカの位置をリアルタイムで確認します。
※Flat Panel Detector
■患者位置決め支援システム(PIAS)
PIAS※は治療計画時に作成された参照画像と治療時に撮影された位置決め画像を重ね合わせて患部の位置ずれ量を計算し、自動位置決めにより、最小限の操作で高スループットの治療を実現します。
※Patient Image Analysis System
使用できるPIASの位置決め手法にはDRR※-DR※(2D/2D)モード、CT-DR(3D/2D)モード、CT-CT(3D/3D)モードの3方式があります。
※DRR:Digitally Reconstructed Radiography
DR:Digital Radiography
※Region Of Interest
重粒子線システム
■スキャニング照射方式
スキャニング照射方式は細いビームを用い、腫瘍の形状に合わせて正確に照射することが可能な技術で、従来に比べて周囲の正常な細胞への影響を抑えることが可能です。
呼吸同期照射システム
呼吸同期照射システムは呼吸による腹壁の動きをリアルタイムで監視し、息を吐いた時だけを狙って重粒子線を照射します。照射する範囲は 4 次元 CT
を元に治療計画時に決定されます。
この技術により、腫瘍の呼吸性移動に伴う線量分布の乱れが改善し、高精度な照射が可能となります。
治療設備概要
■CT装置
キヤノンメディカルシステムズ株式会社製2台
(16列検出器型ラージボア装置1台、80列検出器装置1台)
当センターでは治療計画用CT装置としてキヤノンメディカルシステムズ株式会社製Aquilion LBを主に使用します。当センターでは重粒子線治療を行う際の治療計画用CT検査を行う事が主要な目的であり、治療を受ける際と同じ体位をとることが可能で、尚且つ体輪郭がすべて入る撮像範囲が必要になります。CT撮影を行う装置の穴の部分ガントリー(ボア)内径が大きい方が自由度が高くなります。Aquilion LBは900mmと一般的な診断用CT装置よりも大きく、固定具を装着し、寝台を傾けた状態であっても、体と装置との干渉無く撮影するこが可能となります。一方、80列の検出器を持つAquilion PrimeはLBよりも高速な回転速度での撮影が可能で時間分解能に優れた画像を、短時間で撮影する事ができます。
両装置とも、金属による画質低下を防ぐ機能が装備されており、治療計画CTに応用することができます。
■MRI装置
キヤノンメディカルシステムズ株式会社製1台
(1.5テスラ)
当センターに導入されているキヤノンメディカルシステムズ株式会社製1.5テスラMRI装置Vantage elanは、「高画質」「簡単」「コンパクト」の3つをコンセプトに開発されています。 キヤノンメディカルシステムズ株式会社独自の技術により、優れた磁場の均一性、撮像をアシストする様々な機能、省スペースかつ静音設計による人に優しい検査環境を実現しています。MR画像の要ともいえる、高精度な磁場のコントロールによる高画質な画像で治療計画において、治療計画用CTに詳細な解剖学的情報を付加できます。